これからの象と太陽社の話をしよう。
白波の立つ寒い季節から、桜の木に若葉が出揃うまでの時間を、僕は自分を安心させれるだけの情報の収集に費やした。
と言うのも、自称”とびっきり保守的”な僕はリスクのありそうなことには滅法及び腰なのだ。
不確実性をできる限りに少なくする作業無しでは前進が無いのである。
ご存じの通り僕たちはヘアサロン、バール、ハーブ栽培&加工を生業として生計を立てて暮らしている。
収入源を分散させているのは、僻地に住む僕たちなりのリスクヘッジと言う意味合いと、僕の飽きっぽさをカバーする為だ。
現在、ヘアサロンはほぼ妻が切り盛りしてくれている。
美容師としての僕の仕事である、ヘナやハーブカラーのメニューは、予約があればもちろんさせてもらってはいるが、コロナ禍と言うこともあり、オンラインでのカウンセリングやレシピ作成もするようになったので、僕が日中に美容の仕事に時間を割く比率は以前より大幅に減った。
コロナ禍と言うことで、バールは現在のところスターティングメンバーのリストには入っていない。
とどのつまり、僕たちなりに入念に組み立てた生活設計にまたもや楔を入れる事にしたのだ。
長男も小学生になり少し手が離れ、下の子もそろそろ保育園というタイミングで、夫婦2人でチャレンジするにはまずまずの機会ではないだろうかと考えている。
そう言う訳で、今どきの言葉で言うと、我々が取り組んできた、六次産業と言う枠の中に飲み込まれた一次産業のクオリティを上げること、尚且つ加工技術、発送やエコな梱包方法までのレベルを上げてスマートな六次産業化を目指すのである。
こんな事を言うと、今までは遊び半分でハーブ栽培をしていたのか!と不信感を抱く方もいらっしゃるだろう。
いや、これには語弊があるので釈明の余地を頂こう。
ハーブを育てだして4年、我々なりに試行錯誤し、ああだこうだ言いながらそれなりに真剣にやって来た。
今となっては自然栽培にも慣れて、ハーブティーやハーブソルトなどの加工にも小慣れてきた。
しかしながら、ハーブはやはり摘みたてでフレッシュなものが抜群に香り高い。(ハーブ畑でハーブティーを作ったらもう何も要らない位美味しいのだ!)
多分、ハーブと言うと、スーパーマーケットなどで売っている大量生産のドライハーブの風味を想像される方がほとんどだと思うので、その違いに驚かれるはずだ。
さすがにフレッシュなままお届けできないものも多いので、やはりドライハーブが主流になるが、ドライの仕方でクオリティが格段に違ってくる。
簡単に言うと、最高に美味しいハーブを届けれるようになりたいのだ。
ハーブ苗やフレッシュハーブ、シンプルなハーブティーなどを品質をキープしてお届けできるようになっていきたい。
さて、話は変わるが、”農家”と言う言葉には、何世代にも渡って農業を生業としてきた家を僕に連想させる。
梅雨時期には蛙が大合唱し、夏にはまるまる太ったきゅうりをおやつに齧れるような贅沢な少年時代を過ごすことの出来る家。
都市部近郊のベッドタウン育ちの僕たちが育った所とは別の世界にある家だ。
実際、農業になんの縁も無かった僕たちの栽培方法は見よう見まねで始まり、自分たちで試行錯誤を繰り返してきた完全なる自己流だ。
ハーブ農家と名乗るにはやはり気恥ずかしさが先に立つ。
我々には、ハーブを育ててる奴ら”Herb growers”みたいなのがちょうど良いくらいだろうか。
そもそも、そんな我々が今になってHerb growersなるものに取り組んでみようかと思えたのは、やはりハーブを気に入って使って下さる方々からの声が背中を押してくれるからに他ならない。
例えば、以前に紹介させてもらった京都のGOLCONDAさんは納品の度にいつも励みになるフィードバックをくれる。
ゴルコンダさんは僕たちにとってハーブ屋としては初めてのお客さんだったので、僕たちはゴルコンダさんの事だけを考えて、小規模なりにも畑を設計し、植え付け計画を練り、送り届ける事が出来た。
用途や形状を細かくリクエストして貰えるのも、より必要とされているものを届けれるので、僕たちにはありがたい。
この様な効率とは掛け離れたハーブ栽培だけれど、ゴルコンダさんの商品を気に入っている方々がうちのハーブを気に入ってくれて、ありがたいことに、少しづつではあるけれど、販路が増えて行きつつある。
我々の仕事の仕方はこの資本主義社会の激流の中ではあまりにも脆弱すぎる。
しかし、お金以外の幸せを享受しやすいように出来ているとも言える。
自分で育てたハーブを手にしてくれる相手をリアルに想像できて、その人のためにスペシャルを作れるもの作りは幸せだ。
何をするにも1歩進んで3歩下がるような歩みの鈍さも、利益より幸せを優先する働き方も我々らしい愛すべき効率の悪さだ。
「不効率の国の不効率なハーブ屋から幸せなハーブをあなたの元へ」
みたいなキャッチコピーがお似合いなのだ。